担保の範囲と優先順位を整理
1本章の学習ポイント
抵当権は、不動産を担保に取り、債務者が約束どおりに弁済しないときに、その不動産の競売代金から優先して弁済を受ける権利です。抵当権者は担保不動産を預からないため、設定者は原則として引き続き使用し、利益を得ることができます。
学習の全体像
この章では、抵当権の基本的な仕組みから、成立と登記、効力が及ぶ範囲、物上代位、第三取得者の保護、賃貸借との関係、法定地上権、順位、根抵当権までを順に整理します。「何を担保にしているか」「どこまで効力が及ぶか」「実行したとき誰が先に弁済を受けるか」を分けて考えることが大切です。
試験対策
試験では、抵当権は合意で成立し、登記は第三者に対する対抗要件であること、物上代位には払渡し・引渡し前の差押えが必要であること、法定地上権は抵当権設定当時の状態を基準に判断することがよく問われます。第三取得者、6か月の明渡猶予、根抵当権もあわせて押さえましょう。
【この章で学ぶこと】
抵当権は、「成立」「効力の範囲」「実行」「第三者との関係」「順位」の5つに分けると整理しやすくなります。
2抵当権の基本構造
抵当権は、債務の弁済がない場合に担保不動産を競売し、その売却代金からほかの債権者に先立って弁済を受ける担保物権です。質権とは異なり、抵当権者が目的物を占有する必要はありません。
関係者は、抵当権者、債務者、抵当権設定者の3者に分けて確認します。抵当権者は担保を取る人、債務者は返済義務を負う人、抵当権設定者は不動産を担保として提供する人です。設定者は債務者本人とは限らず、他人の債務のために自分の不動産を担保に出す物上保証人の場合もあります。
債務不履行が生じると、抵当権者は抵当権を実行して競売代金から優先弁済を受けます。同じ不動産に複数の抵当権が設定されているときは、原則として登記の順位に従って配当されます。
| 当事者・項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 抵当権者 | 担保を取る側。債務不履行時に競売代金から優先弁済を受ける |
| 債務者 | 被担保債権について弁済義務を負う人 |
| 抵当権設定者 | 担保不動産を提供する人。債務者本人とは限らない |
| 物上保証人 | 他人の債務を担保するため、自分の不動産に抵当権を設定する人 |
| 占有 | 抵当権者へ移らない。設定者は原則として使用・収益を続けられる |
| 実行 | 債務不履行時に競売し、登記順位に従って優先弁済を受ける |
【重要ポイント】
債務者と抵当権設定者は、必ずしも同じ人ではありません。物上保証人が登場したら、誰が返済義務を負い、誰の不動産が担保になっているかを分けて確認します。
3成立・目的物・設定者の権限
抵当権は、抵当権者と設定者が抵当権を設定することに合意すれば成立します。設定登記は成立のための要件ではありません。ただし、抵当権を第三者に主張するためには登記が必要です。
抵当権の目的にできるものは、土地や建物のほか、地上権、永小作権です。土地と建物は法律上別々の不動産として扱われるため、土地だけに抵当権を設定しても、当然にその土地上の建物まで担保になるわけではありません。
原則として、抵当権を設定できるのは目的物を処分できる権限を持つ人です。債務者以外の人でも、自分が所有する不動産を他人の債務の担保に提供することはできます。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 成立 | 抵当権設定契約の合意によって成立する |
| 登記 | 成立要件ではないが、第三者に対する対抗要件となる |
| 順位 | 複数の抵当権がある場合、原則として設定登記の先後で決まる |
| 目的物 | 土地、建物、地上権、永小作権 |
| 土地と建物 | 別個の不動産。どちらに抵当権が設定されたかを個別に確認する |
| 設定者の権限 | 目的物を担保に出す処分権限が必要。物上保証人も設定者になれる |
【注意ポイント】
土地に抵当権が設定されていても、その上の建物に当然に効力が及ぶわけではありません。問題文では、抵当権の目的物を最初に確定します。
4抵当権の効力が及ぶ範囲
抵当権には、付従性、随伴性、不可分性があります。付従性とは、担保される債権がなければ抵当権も成立せず、その債権が消滅すれば抵当権も原則として消滅する性質です。随伴性とは、被担保債権が譲渡されると、原則として抵当権も一緒に移る性質をいいます。
不可分性とは、被担保債権の全額が弁済されるまで、抵当権の効力が目的物全体に及ぶ性質です。一部だけ弁済されたからといって、その割合に応じて抵当権の対象が自動的に縮小するわけではありません。
別段の定めがなければ、抵当権の効力は抵当不動産だけでなく、付加一体物、従物、従たる権利にも及びます。借地上の建物に抵当権を設定した場合は、その建物を利用するために必要な借地権にも効力が及びます。
果実や賃料には原則として抵当権の効力は及びませんが、被担保債権の不履行後に生じた果実には効力が及びます。また、後順位抵当権者などの利害関係人がいる場合、利息、定期金、遅延損害金について優先弁済を受けられるのは、原則として最後の2年分です。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 付従性 | 被担保債権がなければ抵当権も成立せず、債権が消滅すれば抵当権も原則として消滅する |
| 随伴性 | 被担保債権が譲渡されると、原則として抵当権も一緒に移転する |
| 不可分性 | 被担保債権の全部が弁済されるまで、目的物全体に効力が及ぶ |
| 付加一体物・従物 | 別段の定めがなければ、抵当不動産と一体になった物や従物にも効力が及ぶ |
| 従たる権利 | 建物利用に必要な借地権などにも効力が及ぶ |
| 果実 | 原則として効力は及ばないが、債務不履行後に生じた果実には及ぶ |
| 利息・定期金・遅延損害金 | 利害関係人がいる場合、優先弁済は原則として最後の2年分に限られる |
【注意ポイント】
元本の優先弁済と、利息・遅延損害金をどこまで優先回収できるかは別問題です。後順位抵当権者などの利害関係人がいるかを確認します。
5物上代位と抵当権の実行
物上代位とは、抵当権の目的物が売買代金債権、賃料債権、損害賠償請求権、保険金請求権などに形を変えた場合に、その金銭や債権にも抵当権の効力を及ぼす制度です。
物上代位を行使するには、原則として抵当権者自身が、金銭などの払渡しまたは引渡しが行われる前に差し押さえなければなりません。すでに支払われた後では、原則として物上代位を主張できません。
抵当権を実行するときは、抵当不動産を競売にかけ、その売却代金から優先弁済を受けます。同じ不動産に複数の抵当権がある場合は、原則として登記順位に従って配当されます。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 物上代位の対象 | 売買代金債権、賃料債権、損害賠償請求権、保険金請求権など |
| 差押えの時期 | 払渡しまたは引渡しの前に差押えが必要 |
| 差押えをする人 | 原則として抵当権者自身が差し押さえる |
| 支払後 | 原則として物上代位を主張できない |
| 賃料債権 | 賃借人が賃料を支払う前に差し押さえる |
| 抵当権の実行 | 抵当不動産を競売し、売却代金から登記順位に従って優先弁済を受ける |
【重要ポイント】
物上代位では、何に形を変えたかだけでなく、「支払われる前に差し押さえたか」が最重要です。
6第三取得者の保護制度
第三取得者とは、抵当権が付いたままの不動産を取得した人です。抵当権の負担は消えないため、債務が弁済されなければ、その不動産が競売される可能性があります。
第三取得者を保護する制度には、抵当権消滅請求と代価弁済があります。抵当権消滅請求は、第三取得者が抵当権者に一定の金額を提示して抵当権の消滅を求める制度です。これに対し、代価弁済は、抵当権者からの請求に応じて第三取得者が代価を弁済し、抵当権を消滅させる制度です。
抵当権消滅請求は、競売による差押えがされた後には利用できません。また、主たる債務者、保証人、これらの承継人は、この制度を利用できません。
第三取得者が抵当不動産について必要費や有益費を支出していた場合は、競売代金から最優先で償還を受けます。抵当権者よりも先に回収できる点が重要です。
| 制度・項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 抵当権消滅請求 | 第三取得者が一定額を提示し、抵当権者に抵当権の消滅を求める |
| 代価弁済 | 抵当権者の請求に応じて第三取得者が代価を弁済し、抵当権を消滅させる |
| 言い出す人 | 抵当権消滅請求は第三取得者、代価弁済は抵当権者 |
| 利用できる時期 | 抵当権消滅請求は、競売による差押え後には利用できない |
| 利用できない人 | 主たる債務者、保証人、これらの承継人 |
| 必要費・有益費 | 第三取得者は競売代金から最優先で償還を受ける |
【判断のコツ】
2つの制度は、誰が最初に動くかで区別します。消滅請求は第三取得者から、代価弁済は抵当権者からです。
7抵当権と賃貸借
抵当権と賃貸借の優劣は、賃借権が抵当権設定前に対抗力を備えていたか、抵当権設定後に成立したかで判断します。抵当権より先に対抗力を備えた賃借権は、競売後の買受人にも対抗できます。
抵当権設定後に成立した賃借権は、原則として抵当権者や競売後の買受人に対抗できません。ただし、抵当権者全員の同意を得て、その同意を登記した場合には対抗できます。
一定の建物賃借人には、買受けの時から6か月間、建物の明渡しを猶予してもらえる制度があります。ただし、これは賃借権を買受人に対抗できる制度ではなく、明渡しまでの期間を一時的に確保する制度です。賃料相当額を支払わない場合などには、猶予を失うことがあります。
| 場面 | 結論・確認ポイント |
|---|---|
| 抵当権設定前の賃借権 | 対抗要件を備えていれば、競売後の買受人にも対抗できる |
| 抵当権設定後の賃借権 | 原則として、抵当権者や競売後の買受人に対抗できない |
| 抵当権者全員の同意 | 同意を得て登記すれば、設定後の賃借権でも対抗できる |
| 6か月明渡猶予 | 買受けの時から6か月間、明渡しが猶予される。賃借権の対抗制度ではない |
| 猶予を失う場合 | 賃料相当額を支払わない場合など |
【注意ポイント】
6か月明渡猶予は、競売後も住み続けられる権利を与える制度ではありません。明渡しまでの時間を一時的に確保する制度です。
8法定地上権と一括競売
法定地上権は、抵当権の実行によって土地と建物の所有者が別々になった場合に、建物を存続させるため法律上当然に成立する地上権です。判断の基準となる時点は、競売時ではなく抵当権設定当時です。
法定地上権が成立するには、抵当権設定当時に土地の上に建物が存在し、土地と建物が同じ人の所有であり、土地または建物に抵当権が設定され、その実行によって土地と建物の所有者が別人になることが必要です。
一括競売は、更地に抵当権を設定した後、その土地上に建物が建てられた場合に、土地と建物をまとめて競売できる制度です。ただし、抵当権者が優先弁済を受けられるのは土地の売却代金部分からです。
| 要件・制度 | 確認ポイント |
|---|---|
| 基準時 | 競売時ではなく、抵当権設定当時 |
| 建物の存在 | 抵当権設定当時に土地上に建物があること |
| 同一所有 | 抵当権設定当時に土地と建物が同一人の所有であること |
| 抵当権の設定 | 土地または建物に抵当権が設定されていること |
| 所有者の分離 | 抵当権の実行により土地と建物が別人の所有になること |
| 一括競売 | 更地設定後の建物を土地とまとめて競売できる。優先弁済は土地代金部分から |
【重要ポイント】
法定地上権は、競売された時の状態ではなく、抵当権を設定した時の土地・建物の状態を基準に判断します。
9順位・処分・根抵当権
抵当権の順位
1つの不動産に複数の抵当権を設定することができます。優先順位は、原則として登記の早い抵当権が上位となり、先順位の抵当権者から順に競売代金の配当を受けます。先順位抵当権が消滅すると、後順位抵当権の順位は繰り上がります。
抵当権の順位を変更するには、順位変更によって影響を受ける抵当権者の合意、利害関係人の承諾、順位変更の登記が必要です。抵当権設定者の承諾は必要ありません。
順位の譲渡と放棄は、関係する抵当権者の間で配当額を調整する制度です。順位を譲渡した場合は譲り受けた抵当権者が優先し、順位を放棄した場合は放棄した抵当権者と利益を受ける抵当権者が同順位として扱われます。
根抵当権
根抵当権は、一定の範囲に属する不特定の債権を、極度額を上限として担保する抵当権です。継続的な取引で債権が発生・消滅を繰り返す場合に利用されます。
元本確定前は、担保される債権が入れ替わるため、通常の抵当権のような強い付従性・随伴性はありません。元本が確定すると、担保される債権が固定され、通常の抵当権に近い状態になります。
極度額は、利害関係人の承諾があれば、元本確定の前後を問わず変更できます。一方、担保する債権の範囲や債務者の変更は、元本が確定する前に限られます。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 順位 | 原則として登記の早い抵当権が優先し、先順位から配当を受ける |
| 順位変更 | 抵当権者の合意、利害関係人の承諾、登記が必要。設定者の承諾は不要 |
| 順位の譲渡 | 譲り受けた抵当権者が優先する |
| 順位の放棄 | 放棄した抵当権者と利益を受ける抵当権者が同順位となる |
| 根抵当権 | 一定範囲の不特定債権を極度額まで担保する |
| 元本確定前 | 担保される債権が入れ替わる。通常抵当権のような強い付従性・随伴性はない |
| 元本確定後 | 担保される債権が固定され、通常抵当権に近くなる |
| 極度額の変更 | 利害関係人の承諾があれば、元本確定の前後を問わず変更できる |
| 債権の範囲・債務者の変更 | 元本確定前に限られる |
【試験対策】
根抵当権では、極度額と元本確定の前後を必ず分けます。「何を変更するのか」「元本確定の前か後か」を確認しましょう。
最後に押さえるポイント
- 抵当権は、不動産を担保にし、債務不履行時に競売代金から優先弁済を受ける権利です。
- 抵当権者は不動産を占有せず、設定者は原則として使用・収益を続けられます。
- 抵当権設定者は債務者本人とは限らず、物上保証人の場合もあります。
- 抵当権は合意で成立し、設定登記は第三者に対する対抗要件です。
- 目的物は、土地、建物、地上権、永小作権です。土地と建物は別々の不動産として扱います。
- 通常の抵当権には、付従性、随伴性、不可分性があります。
- 別段の定めがなければ、付加一体物、従物、従たる権利にも効力が及びます。
- 借地上の建物に設定した抵当権は、その建物利用に必要な借地権にも及びます。
- 果実には原則として効力は及びませんが、被担保債権の不履行後に生じた果実には及びます。
- 利害関係人がいる場合、利息・定期金・遅延損害金の優先弁済は原則として最後の2年分です。
- 物上代位には、抵当権者自身による払渡しまたは引渡し前の差押えが必要です。
- 抵当権消滅請求は第三取得者から、代価弁済は抵当権者から動く制度です。
- 主たる債務者、保証人、これらの承継人は抵当権消滅請求を利用できません。
- 抵当権設定後の賃借人は原則として対抗できません。6か月明渡猶予は対抗制度ではありません。
- 法定地上権は、抵当権設定当時に建物があり、土地と建物が同一所有であることなどが要件です。
- 一括競売では、抵当権者が優先弁済を受けられるのは土地代金部分からです。
- 抵当権の順位は、原則として登記の早いものが優先します。
- 根抵当権は、一定範囲の不特定債権を極度額まで担保します。
- 根抵当権の極度額は、利害関係人の承諾があれば元本確定の前後を問わず変更できます。
- 根抵当権の債権の範囲と債務者の変更は、元本確定前に限られます。