責任の相手と時効で整理
1本章の学習ポイント
不法行為とは、契約関係がなくても、故意または過失によって他人に損害を与えた場合に、損害賠償責任が生じる制度です。宅建試験では、成立要件だけでなく、誰が責任を負うのか、免責される場合があるのか、時効は何年かを整理しておくことが重要です。
学習の全体像
この章では、一般不法行為の成立要件、損害賠償と過失相殺、責任能力と監督義務者責任、使用者責任と注文者責任、土地工作物責任、共同不法行為、相殺・相続・債務不履行との違いまでを順に整理します。
試験対策
試験では、責任能力がない本人は不法行為責任を負わないこと、土地工作物責任では占有者を先に確認し、所有者は無過失責任を負うことが狙われます。時効の3年・5年・20年、使用者責任の免責、共同不法行為で加害者を特定できない場合の扱いも重要です。
【この章で学ぶこと】
不法行為は、「成立要件」「責任を負う人」「免責の有無」「時効」の4つに分けて整理します。特に、本人・監督義務者・使用者・占有者・所有者のうち、誰に請求できるかを確認しましょう。
2一般不法行為の成立要件
一般不法行為は、加害者が故意または過失によって、他人の権利または法律上保護される利益を侵害し、その結果として損害が生じた場合に成立します。単に不快な思いをさせた、迷惑をかけたというだけでは足りず、法律上保護される利益の侵害が必要です。
成立を判断するときは、故意・過失、権利または利益の侵害、損害の発生、加害行為と損害との因果関係、加害者本人の責任能力を確認します。
加害者本人に損害賠償責任を負わせるには、責任能力が必要です。責任能力がない場合、本人の不法行為責任は成立せず、親権者などの監督義務者が責任を負うかを検討します。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 故意・過失 | わざと、または不注意によって他人に損害を与えたこと |
| 権利・利益の侵害 | 身体、財産、名誉など、法律上保護される権利または利益を侵害したこと |
| 損害 | 治療費や修理費などの財産的損害だけでなく、慰謝料の対象となる精神的損害も含む |
| 因果関係 | 加害行為と発生した損害との間に、原因と結果のつながりがあること |
| 責任能力 | 自分の行為について責任を判断できる能力。責任能力がなければ、本人の不法行為責任は成立しない |
【注意ポイント】
加害者本人に責任能力があれば本人が責任を負います。責任能力がなければ、本人ではなく、親権者などの監督義務者が責任を負うかを確認します。
3損害賠償・過失相殺・時効
不法行為による損害賠償は、原則として金銭で行います。財産的損害だけでなく、精神的損害も賠償の対象です。名誉を侵害された場合には、金銭賠償に代えて、または金銭賠償とともに、裁判所が名誉を回復するために適当な処分を命じることがあります。
被害者にも損害の発生または拡大について過失があるときは、裁判所は過失相殺によって賠償額を減らすことができます。不法行為の過失相殺は、当事者からの主張がなくても裁判所が考慮できます。
不法行為による損害賠償債務は、不法行為が成立した時から履行遅滞になります。通常の債務のように、請求を受けた時から履行遅滞になるわけではありません。
時効は、原則として、被害者が損害および加害者を知った時から3年です。人の生命または身体を害する不法行為では、知った時から5年となります。また、不法行為の時から20年を経過した場合にも時効が完成します。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 金銭賠償 | 不法行為による損害賠償は、原則として金銭で行う |
| 名誉回復措置 | 名誉侵害では、裁判所が名誉を回復するために適当な処分を命じることがある |
| 過失相殺 | 被害者にも過失があるときは賠償額を減らせる。当事者の主張がなくても裁判所が考慮できる |
| 履行遅滞 | 不法行為による損害賠償債務は、不法行為成立時から履行遅滞となる |
| 時効 | 損害および加害者を知った時から3年。生命・身体侵害は5年。不法行為の時から20年 |
【試験対策】
時効は「知った時から3年」「生命・身体侵害は知った時から5年」「不法行為の時から20年」です。どの時点から数えるのかまでセットで覚えましょう。
4責任能力と監督義務者責任
不法行為責任を負うためには、加害者本人に責任能力が必要です。責任能力とは、自分の行為によってどのような責任が生じるかを判断できる能力をいいます。
責任能力がない者は、本人として不法行為責任を負いません。この場合は、親権者など、責任無能力者を監督する義務を負う者の責任を検討します。
監督義務者は原則として損害賠償責任を負います。ただし、監督義務を怠らなかった場合、または監督義務を怠らなくても損害が生じた場合には、責任を免れます。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 責任能力 | 自分の行為について責任を判断できる能力 |
| 責任無能力者 | 責任能力がない者は、本人として不法行為責任を負わない |
| 監督義務者 | 親権者など、責任無能力者を監督する義務を負う者。原則として責任を負う |
| 監督義務者の免責 | 監督義務を怠らなかった場合、または怠らなくても損害が生じた場合は免責される |
【重要ポイント】
責任能力がない本人に責任を負わせるのではありません。本人の責任能力を確認し、なければ監督義務者責任へ進みます。
5使用者責任と注文者責任
使用者責任とは、会社の従業員などの被用者が、事業の執行について第三者に損害を与えた場合に、使用者も損害賠償責任を負う制度です。被害者は、加害行為をした被用者本人にも、使用者にも請求できます。
使用者は、被用者の選任および事業の監督について相当の注意をした場合、または相当の注意をしても損害が生じた場合には免責されます。使用者に代わって事業を監督する者も、同様に責任を負うことがあります。
使用者が被害者に賠償したときは、被用者に求償できます。ただし、信義則上相当な範囲に限られ、常に全額を請求できるわけではありません。
一方、請負人が第三者に損害を与えた場合、注文者は原則として責任を負いません。請負人は注文者から独立して仕事を行うからです。ただし、注文または指図について注文者に過失がある場合には、例外として注文者も責任を負います。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 使用者責任 | 被用者が事業の執行について第三者に損害を与えた場合、使用者も責任を負う |
| 被害者の請求先 | 被害者は、被用者本人にも使用者にも損害賠償を請求できる |
| 使用者の免責 | 選任・監督について相当の注意をした場合、または注意しても損害が生じた場合は免責される |
| 代理監督者 | 使用者に代わって事業を監督する者も、責任を負うことがある |
| 使用者の求償 | 使用者が賠償した場合、信義則上相当な範囲で被用者に求償できる |
| 注文者責任 | 請負人の加害について注文者は原則責任を負わない。注文または指図に過失がある場合は責任を負う |
【重要ポイント】
使用者は被用者を使って事業を行う立場であり、注文者は独立した請負人に仕事を依頼する立場です。使用者責任と注文者責任を同じ扱いにしないようにしましょう。
6土地工作物責任
土地工作物責任とは、建物、塀、看板などの土地工作物に設置または保存の瑕疵があり、その欠陥によって他人に損害が生じた場合の責任です。竹木の栽植または支持に瑕疵がある場合にも、同じルールが適用されます。
責任を負う順番が重要です。まず、工作物を事実上支配している占有者が責任を負います。占有者は、損害の発生を防止するために必要な注意をしたことを証明すれば免責されます。
占有者が免責された場合は、工作物の所有者が責任を負います。所有者の責任は無過失責任であるため、必要な注意をしていたとしても免責されません。損害の原因について別に責任を負う者がいる場合には、占有者または所有者は、その者に求償できます。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 土地工作物 | 建物、塀、看板など、土地に接着して人工的に設置された物 |
| 設置・保存の瑕疵 | 通常備えるべき安全性を欠いている状態 |
| 占有者責任 | 第一次的に占有者が責任を負う。必要な注意をした場合は免責される |
| 所有者責任 | 占有者が免責された場合に所有者が責任を負う。所有者は無過失責任 |
| 竹木の瑕疵 | 竹木の栽植または支持に瑕疵がある場合にも、土地工作物責任のルールを適用する |
| 求償 | 損害の原因について別に責任を負う者がいる場合、占有者・所有者はその者に求償できる |
【注意ポイント】
土地工作物責任は、まず占有者を確認します。占有者が必要な注意をして免責されたときに、無過失責任を負う所有者へ進みます。
7共同不法行為
共同不法行為とは、複数の者が共同して他人に損害を与えた場合をいいます。各共同不法行為者は、被害者に対して連帯して損害賠償責任を負います。
共同行為者のうち、誰が実際に損害を加えたのか分からない場合も、共同不法行為と同様に連帯責任を負います。被害者が加害者を特定できないことによって、賠償を受けられなくなるのを防ぐためです。
被害者は、各共同不法行為者に対して損害の全額を請求できます。一人が賠償した場合は、加害者同士の内部関係で求償し、最終的に負担割合に応じて調整します。
共同不法行為者の一人に対する請求は、原則として他の共同不法行為者には影響しません。時効の完成猶予の効力も、原則として請求を受けた者にだけ生じます。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 外部関係 | 各共同不法行為者が、被害者に対して損害の全額について責任を負う |
| 加害者が不明の場合 | 共同行為者のうち誰が損害を加えたか分からない場合も、連帯責任を負う |
| 内部関係 | 一人が賠償した場合、他の共同不法行為者に求償し、負担割合に応じて調整する |
| 時効完成猶予 | 一人に対する請求の効力は、原則として他の共同不法行為者には及ばない |
【注意ポイント】
被害者との外部関係では各人が全額責任を負いますが、一人への請求の効果が他の加害者にも当然に及ぶわけではありません。
8相殺・相続・債務不履行との比較
不法行為による損害賠償債権は、相殺や相続との関係も問われます。悪意による不法行為や、人の生命・身体を害する不法行為による損害賠償債務については、加害者側からの相殺が制限されます。制限されるのは加害者側からの相殺であり、被害者側から相殺することはできます。
被害者が死亡しても、損害賠償請求権は相続人に承継されます。被害者が即死した場合でも同じです。また、被害者の父母・配偶者・子には、被害者本人の請求権とは別に、固有の慰謝料請求が認められることがあります。
不法行為は、契約関係がない場面での加害行為を問題とする制度です。これに対し、債務不履行は契約上の義務に違反した場合の責任です。履行遅滞の開始時期、時効の起算点、相殺制限、過失相殺の扱いを区別しましょう。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 相殺制限 | 悪意による不法行為や生命・身体侵害による損害賠償債務では、加害者側からの相殺が制限される。被害者側からの相殺は可能 |
| 過失相殺 | 不法行為では裁判所が考慮できる。債務不履行では裁判所が考慮しなければならない |
| 相続 | 損害賠償請求権は相続人に承継される。即死の場合でも相続される |
| 近親者の慰謝料 | 被害者の父母・配偶者・子には、固有の慰謝料請求が認められることがある |
| 制度の違い | 不法行為は契約外の加害行為、債務不履行は契約上の義務違反 |
| 時効の違い | 不法行為は知った時から3年、生命・身体侵害は5年、不法行為時から20年。債務不履行とは起算点が異なる |
【試験対策】
不法行為の過失相殺は、裁判所が「考慮できる」ものです。債務不履行では裁判所が「考慮しなければならない」点と区別しましょう。
最後に押さえるポイント
- 一般不法行為は、故意・過失、権利または法律上保護される利益の侵害、損害、因果関係、責任能力を確認します。
- 不法行為による損害賠償は、原則として金銭で行います。
- 過失相殺は、当事者の主張がなくても裁判所が考慮できます。
- 不法行為による損害賠償債務は、不法行為成立時から履行遅滞になります。
- 時効は、損害および加害者を知った時から原則3年、生命・身体侵害は5年、不法行為の時から20年です。
- 責任能力がない者は、本人として不法行為責任を負いません。監督義務者の責任を確認します。
- 使用者責任では、被害者は被用者本人にも使用者にも請求できます。
- 注文者は、請負人の加害について原則責任を負いませんが、注文または指図に過失がある場合は責任を負います。
- 土地工作物責任は、まず占有者、次に所有者の順で確認します。所有者は無過失責任です。
- 土地工作物責任のルールは、竹木の栽植または支持に瑕疵がある場合にも適用されます。
- 共同不法行為では、各共同不法行為者が被害者に対して損害の全額について責任を負います。
- 共同行為者のうち誰が損害を加えたか分からない場合も、連帯責任を負います。
- 共同不法行為者の一人への請求は、原則として他の共同不法行為者には影響しません。
- 悪意による不法行為や生命・身体侵害では、加害者側からの相殺が制限されます。
- 被害者が死亡しても損害賠償請求権は相続され、父母・配偶者・子には固有の慰謝料請求が認められることがあります。
- 不法行為の過失相殺は任意的、債務不履行の過失相殺は必要的です。