信頼関係を軸に、受任者の義務と契約の終了を整理
1本章の学習ポイント
委任は、「この事務をあなたに任せたい」という信頼関係をもとに成立する契約です。法律行為を任せる場合を委任、法律行為ではない事務を任せる場合を準委任といいます。準委任にも、原則として委任のルールが使われます。
学習の全体像
この章では、委任の成立、委任・準委任・請負の違い、受任者が負う義務、報酬・費用・損害の扱い、復委任、解除と終了原因を順に確認します。委任は完成した成果物を約束する契約ではなく、任された事務を適切に処理する契約だと考えると整理しやすくなります。
試験対策
試験では、委任が書面なしでも成立すること、原則として無報酬であること、無報酬でも受任者は善管注意義務を負うことがよく問われます。また、各当事者はいつでも解除できますが、解除した時期や目的によって損害賠償が必要になる場合があります。解除できるかどうかと、賠償責任を負うかどうかを分けて判断してください。
【この章で学ぶこと】
委任は「信頼して事務を任せる契約」です。成立、受任者の義務、金銭関係、解除・終了の順に整理します。
2委任の基本
委任は、委任者が相手方に法律行為を任せ、相手方がこれを承諾することで成立します。事務を頼む側を委任者、頼まれて処理する側を受任者といいます。
委任は諾成契約です。契約書や委任状を作成しなくても、委託と承諾があれば成立します。また、委任は原則として無報酬です。受任者が報酬を請求するには、報酬を支払う旨の特約が必要です。
委任契約と代理権は、同じものではありません。委任によって代理権が与えられることはありますが、委任は「事務を頼む契約」、代理は「代理人がした行為の効果を本人に帰属させる制度」です。問題では、この2つを分けて考えます。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 委任者 | 法律行為などの事務を相手に任せる人 |
| 受任者 | 委任者から頼まれた事務を処理する人 |
| 成立 | 委託と承諾によって成立する諾成契約。書面は成立要件ではない |
| 報酬 | 原則として無報酬。報酬を請求するには特約が必要 |
| 代理との関係 | 委任は事務を頼む契約、代理は本人に効果を帰属させる制度。両者は別の概念 |
【重要ポイント】
実務では委任状が使われますが、民法上の委任契約は、委託と承諾だけで成立します。委任状は、権限や契約の内容を確認するための書面です。
3委任・準委任・請負の違い
委任に似た契約として、準委任と請負があります。準委任は、法律行為ではない事務を任せる契約です。土地や建物の管理、調査、相談などが代表例で、委任に関する規定が準用されます。
これに対して、請負は仕事の完成を目的とする契約です。委任と準委任では、受任者が任された事務を適切に処理したかが中心になります。請負では、約束した仕事が完成したかどうかが中心です。
| 契約 | 目的 | 主な例 | 判断の中心 |
|---|---|---|---|
| 委任 | 法律行為を任せる | 登記申請、契約締結など | 任された法律行為を適切に処理したか |
| 準委任 | 法律行為以外の事務を任せる | 管理、調査、相談など | 任された事務を適切に処理したか |
| 請負 | 仕事を完成させる | 建築、リフォームなど | 約束した仕事が完成したか |
【学習のコツ】
「事務を処理する」のが委任・準委任、「仕事を完成させる」のが請負です。結果が完成しなければならない契約かどうかで見分けます。
4受任者の義務
受任者は、委任者から信頼されて事務を任される立場です。そのため、報酬を受け取るかどうかにかかわらず、善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負います。これを善管注意義務といいます。
受任者は、委任者から求められたときや委任が終了したときに、事務の処理状況や結果を報告しなければなりません。また、委任事務の処理によって受け取った金銭や物、委任者のために取得した権利は、委任者へ引き渡し、または移転する必要があります。
委任は、「その人だから任せた」という性質の強い契約です。そのため、受任者は原則として自分で事務を処理し、第三者へ自由に任せることはできません。
| 義務 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 善管注意義務 | 善良な管理者の注意をもって事務を処理する | 報酬の有無にかかわらず負う |
| 報告義務 | 委任者から請求があったとき、または委任終了時に処理状況を報告する | 終了時には経過と結果を説明する |
| 引渡義務 | 委任事務の処理によって受け取った金銭や物を委任者へ渡す | 受任者が自分のために使うことはできない |
| 権利移転義務 | 委任者のために取得した権利を委任者へ移転する | 名義だけを受任者に残さない |
| 金銭消費時の責任 | 引き渡すべき金銭を自分のために消費した場合、消費日以後の利息を支払う | 損害があれば、その損害も賠償する |
| 自己執行義務 | 原則として受任者自身が事務を処理する | 復委任には承諾またはやむを得ない事由が必要 |
【注意ポイント】
無報酬であっても、受任者の注意義務が軽くなるわけではありません。「無償だから自分の物と同じ程度に扱えばよい」とは考えません。
5報酬・費用・損害の整理
委任は原則として無報酬です。受任者が報酬を請求できるのは、報酬を支払う特約がある場合です。報酬を受け取る約束があるときも、原則として委任事務を履行した後に請求します。
委任が途中で終了した場合でも、受任者の責任とはいえない事情によって事務を続けられなくなったときや、委任が中途で終了したときには、すでに行った履行の割合に応じて報酬を請求できることがあります。
費用は報酬とは別に整理します。受任者は、委任事務を処理するために必要な費用について、委任者へ前払いを求めることができます。受任者が立て替えた場合には、立替費用と支出日以後の利息を請求できます。さらに、委任事務を処理するために受任者が過失なく損害を受けた場合は、委任者へ損害賠償を請求できます。
| 項目 | 請求できる内容 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 報酬 | 特約がある場合に請求できる | 原則として履行後に請求する |
| 割合に応じた報酬 | すでに行った履行の割合に応じた報酬 | 受任者の責めに帰することができない事情による中途終了などで確認 |
| 費用の前払い | 委任事務に必要な費用の前払い | 費用は報酬とは別に請求できる |
| 費用の償還 | 立て替えた費用と支出日以後の利息 | 支払った日からの利息を忘れない |
| 損害賠償 | 受任者が過失なく受けた損害の賠償 | 委任事務を処理するために生じた損害かを確認 |
【重要ポイント】
無報酬の委任でも、必要な費用まで受任者が負担するわけではありません。報酬・費用・損害を別々に判断します。
6復委任
復委任とは、受任者が第三者に委任事務をさらに任せることです。受任者から事務を任された第三者を、復受任者といいます。
委任は信頼関係を基礎とするため、受任者は原則として自由に復委任できません。復委任が認められるのは、委任者の承諾がある場合、またはやむを得ない事由がある場合です。
復委任をしたからといって、受任者の責任が当然になくなるわけではありません。復受任者をどのように選び、どのように監督したかも問題になります。また、代理で学ぶ「復代理」とは別の制度なので、混同しないようにしましょう。
| 確認事項 | ルール |
|---|---|
| 原則 | 受任者は第三者へ自由に委任事務を任せることができない |
| 認められる場合 | 委任者の承諾がある場合、またはやむを得ない事由がある場合 |
| 復受任者 | 受任者からさらに委任事務を任された第三者 |
| 受任者の責任 | 復委任をしても当然には消えない。復受任者の選任・監督も確認する |
| 復代理との違い | 復委任は委任契約上の事務処理をさらに任せるもの。代理権に関する復代理とは別に整理する |
【注意ポイント】
復委任は、本人を信頼して任せたという原則に対する例外です。問題文では、委任者の承諾またはやむを得ない事情があるかを先に確認します。
7委任契約の解除・終了原因
委任は信頼関係をもとにする契約であるため、委任者と受任者のどちらからでも、いつでも解除できます。解除するために、特別な理由が必要なわけではありません。
ただし、いつでも解除できることと、損害賠償をしなくてよいことは別です。相手方に不利な時期に解除した場合や、受任者の利益も目的とする委任を委任者が解除した場合には、原則として相手方の損害を賠償する必要があります。もっとも、やむを得ない事由があるときは、損害賠償は不要です。
委任は、委任者または受任者の死亡、破産手続開始の決定などによっても終了します。また、受任者について後見開始の審判があった場合には終了しますが、委任者について後見開始の審判があっても終了しません。
受任者が死亡しても、相続人が当然に受任者の地位を引き継いで委任事務を続けるわけではありません。ただし、急迫の事情がある場合には、委任者側が対応できるようになるまで、相続人などが必要な処分をしなければなりません。
委任の終了は、相手方へ通知したとき、または相手方がその事実を知っていたときでなければ、相手方に対抗できません。なお、解除の効力は将来に向かって生じるため、解除前に行われた事務処理までさかのぼって消えるわけではありません。
| 項目 | ルール | 注意点 |
|---|---|---|
| 解除 | 各当事者はいつでも解除できる | 理由がなくても解除できる。効力は将来に向かって生じる |
| 損害賠償 | 相手方に不利な時期の解除などでは、原則として損害賠償が必要 | やむを得ない事由がある場合は不要 |
| 死亡 | 委任者または受任者の死亡によって終了 | 受任者の相続人が当然に事務を承継するわけではない |
| 破産 | 委任者または受任者について破産手続開始の決定があると終了 | 当事者のどちらの破産でも終了原因となる |
| 後見開始 | 受任者の後見開始では終了する | 委任者の後見開始では終了しない |
| 終了後の処理 | 急迫の事情がある場合は必要な処分を行う | 委任者側が対応できるようになるまでの応急処置 |
| 相手方への対抗 | 通知または相手方が終了を知っていたことが必要 | 終了原因が生じただけでは相手方に主張できない |
【注意ポイント】
「いつでも解除できる」からといって、「損害賠償も不要」とは限りません。解除の可否と賠償責任を分けて判断します。
最後に押さえるポイント
- ● 委任は、法律行為を相手に任せる諾成契約です。委託と承諾で成立します。
- ● 契約書や委任状は成立要件ではなく、委任契約と代理権も別の概念です。
- ● 委任は原則無報酬で、報酬を請求するには特約が必要です。
- ● 準委任は法律行為以外の事務処理、請負は仕事の完成を目的とします。
- ● 受任者は、報酬の有無にかかわらず善管注意義務を負います。
- ● 受任者は、報告義務、金銭・物の引渡義務、権利移転義務を負います。
- ● 受任者は原則として自分で事務を処理し、第三者へ自由に任せられません。
- ● 必要費用は前払いを請求でき、立替後は費用と支出日以後の利息を請求できます。
- ● 受任者が過失なく損害を受けた場合は、委任者へ損害賠償を請求できます。
- ● 復委任には、委任者の承諾またはやむを得ない事由が必要です。
- ● 復委任をしても、受任者の責任が当然になくなるわけではありません。
- ● 委任は各当事者がいつでも解除できますが、不利な時期の解除などでは賠償が必要です。
- ● 委任者・受任者の死亡や破産で終了し、受任者の後見開始でも終了します。
- ● 委任者の後見開始では終了せず、終了後も急迫の事情があれば必要な処分を行います。