価格類型と3手法を対応させて整理する
1本章の学習ポイント
不動産鑑定評価は、不動産の経済的な価値を判定し、その結果を金額で示すための手続です。宅建試験では、細かな実務手順よりも、価格の種類と鑑定評価の3手法を正しく対応させることが重要です。
学習の全体像
この章では、正常価格・限定価格・特定価格・特殊価格、価格時点、価格形成要因、最有効使用、原価法・取引事例比較法・収益還元法、さらに直接還元法とDCF法までを順に整理します。
試験対策
まず、「特殊価格だけが市場性を有しない不動産の価格」であることを押さえます。次に、原価法=積算価格、取引事例比較法=比準価格、収益還元法=収益価格という対応を固定しましょう。事情補正と時点修正、直接還元法とDCF法の違いも頻出です。
【判断の順番】
①求める価格の種類を確認する → ②価格形成要因と最有効使用を確認する → ③適用する手法を選ぶ → ④試算価格を調整して鑑定評価額を決める、の順に整理します。
2不動産鑑定評価の基本
不動産鑑定評価とは、不動産の経済価値を客観的に判定し、その結果を価額として示すことです。不動産は、同じ種類の建物や土地であっても、場所・形状・接道・利用状況などによって価値が大きく異なります。そのため、一定の基準に従って評価する必要があります。
評価にあたっては、対象となる不動産、価格を判定する基準日である価格時点、求める価格または賃料の種類を明確にします。そのうえで資料を集め、価格形成要因を分析し、複数の評価手法から試算価格を求めて、最終的な鑑定評価額を決定します。
| 項目 | 整理 |
|---|---|
| 目的 | 不動産の経済価値を判定し、その結果を価額で表示する |
| 評価の基準 | 不動産鑑定評価基準に沿って、客観的に評価する |
| 対象不動産 | どの土地・建物を評価するのかを特定する |
| 価格時点 | 価格を判定する基準となる時点。取引日や調査日とは限らない |
| 求めるもの | 価格または賃料の種類を明確にする |
| 評価の流れ | 資料収集 → 要因分析 → 手法適用 → 試算価格の調整 → 鑑定評価額の決定 |
3価格の種類
鑑定評価で求める価格には、正常価格・限定価格・特定価格・特殊価格の4つがあります。基本となるのは正常価格ですが、依頼の目的や対象不動産の性質によって、他の価格を求める場合があります。
正常価格・限定価格・特定価格は、市場性を有する不動産について求める価格です。これに対し、特殊価格は、一般には市場性を有しない不動産について求めます。名称が似ている特定価格と特殊価格は、市場性の有無で区別しましょう。
| 価格の種類 | 意味 | 覚え方・例 |
|---|---|---|
| 正常価格 | 合理的な市場で形成される市場価値を示す価格 | 鑑定評価の基本となる価格 |
| 限定価格 | 限定された当事者間でのみ意味を持つ価格 | 隣地を併合する場合など |
| 特定価格 | 法令等による社会的要請を背景に、正常価格の前提を満たさない場合に求める価格 | 市場性はある |
| 特殊価格 | 一般には市場性を有しない不動産について、利用状況などを前提に求める価格 | 文化財など。市場性なし |
【注意ポイント】
「特定価格」は市場性のある不動産、「特殊価格」は一般に市場性のない不動産について求めます。名称だけで判断せず、市場性の有無を確認しましょう。
4価格形成要因と最有効使用
不動産の価格は、その不動産がどれだけ役に立つかという効用、どれだけ手に入りにくいかという相対的稀少性、実際に購入する力を伴った需要である有効需要によって動きます。これらに影響を与える事情を、価格形成要因といいます。
価格形成要因は、一般的要因・地域要因・個別的要因の3つに分けます。また、不動産価格は、原則として最有効使用を前提に把握します。最有効使用とは、その不動産の効用を最も高く発揮できる可能性に富む利用方法です。現在の使い方が、必ずしも最有効使用になるとは限りません。
| 区分 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 一般的要因 | 社会・経済・行政・自然環境など、広い範囲に影響する要因 | 景気、人口、金融情勢、法令、災害リスクなど |
| 地域要因 | 対象不動産が属する地域の価格に影響する要因 | 駅からの距離、商業性、住環境、道路条件など |
| 個別的要因 | 対象不動産そのものに固有の要因 | 面積、形状、接道、建物構造、築年数など |
【最有効使用】
現況の利用方法をそのまま前提にするのではなく、その不動産の効用を最も高く発揮できる利用方法を検討します。
5鑑定評価の3手法
不動産価格を求める基本的な手法は、原価法・取引事例比較法・収益還元法です。それぞれの手法によって求められた価格を、試算価格といいます。
原価法は費用性、取引事例比較法は市場性、収益還元法は収益性に着目します。対象不動産の性質や市場の状況を踏まえ、可能な限り複数の手法を適用し、それぞれの試算価格を調整して鑑定評価額を決定するのが基本です。
| 評価手法 | 着目する性質 | 求める試算価格 | 中心となる考え方 |
|---|---|---|---|
| 原価法 | 費用性 | 積算価格 | もう一度造るとしたら必要となる費用から考える |
| 取引事例比較法 | 市場性 | 比準価格 | 類似不動産の取引価格を補正・比較する |
| 収益還元法 | 収益性 | 収益価格 | 将来得られる純収益を現在価値に直す |
【暗記の軸】
原価法=積算価格、取引事例比較法=比準価格、収益還元法=収益価格です。手法名と試算価格名の入れ替えに注意しましょう。
6原価法
原価法は、対象不動産を価格時点でもう一度造るとしたら、どれくらいの費用が必要かという費用性に着目する手法です。
まず再調達原価を求め、そこから価値の減少分を減価修正して、積算価格を算出します。減価修正では、物理的な劣化だけでなく、機能面の陳腐化や経済環境の変化による価値低下も考慮します。耐用年数だけで機械的に判断せず、実際の状態も観察します。
建物で用いやすい手法ですが、土地には絶対に適用できないというわけではありません。造成に要する費用などを把握できる土地では、適用できる場合があります。
| 項目 | 整理 |
|---|---|
| 着目点 | 費用性 |
| 再調達原価 | 価格時点で対象不動産を再び造る場合に必要となる原価 |
| 減価修正 | 再調達原価から、物理的・機能的・経済的な価値減少を反映する |
| 試算価格 | 積算価格 |
| 土地への適用 | 造成費などを把握できる場合には、土地にも適用できることがある |
【基本イメージ】
再調達原価から減価修正を行い、積算価格を求めます。「土地には一切使えない」という断定は誤りです。
7取引事例比較法
取引事例比較法は、対象不動産と類似する不動産の取引事例を集め、その取引価格を補正・比較して価格を求める手法です。この手法によって求める試算価格を、比準価格といいます。
取引事例は、近隣地域や同一需給圏内の類似地域などから選びます。投機的な取引と認められる事例は、適切な比較資料にならないため使用できません。
事例価格をそのまま平均するのではなく、事情補正・時点修正を行い、さらに地域要因と個別的要因の違いを比較して調整します。事情補正は売り急ぎなどの特殊事情を取り除くもの、時点修正は取引時点と価格時点の時間差を直すものです。
| 手順 | 何を調整するか | 例 |
|---|---|---|
| 取引事例の収集・選択 | 対象不動産と比較できる適切な事例を選ぶ | 近隣地域・同一需給圏内の類似地域など |
| 事情補正 | 取引価格に影響した特殊な事情を取り除く | 売り急ぎ、買い進みなど |
| 時点修正 | 取引時点と価格時点のズレを修正する | その間の地価変動など |
| 要因比較 | 地域条件・対象不動産固有の条件の違いを調整する | 駅距離、形状、接道、築年数など |
【混同注意】
事情補正は「取引の特殊事情」、時点修正は「時間のズレ」を直します。
8収益還元法
収益還元法は、対象不動産が将来生み出すと期待される純収益を現在価値に換算し、収益価格を求める手法です。純収益は、総収益から総費用を差し引いて把握します。
賃貸用不動産や事業用不動産では、将来の収益力を価格に反映できるため、特に有効です。投資用不動産の評価でも重要な手法です。
自用不動産であっても、賃貸した場合を想定することで収益還元法を適用できることがあります。自分で使用しているという理由だけで、適用できないと決めつけてはいけません。
| 項目 | 整理 |
|---|---|
| 着目点 | 収益性 |
| 基本の考え方 | 将来の純収益を現在価値に換算して価格を求める |
| 純収益 | 総収益から総費用を差し引いた額 |
| 試算価格 | 収益価格 |
| 有効な対象 | 賃貸用・事業用・投資用不動産 |
| 自用不動産 | 賃貸を想定することで適用できる場合がある |
9直接還元法とDCF法
収益還元法の具体的な方法には、直接還元法とDCF法があります。どちらも収益価格を求める方法ですが、対象とする期間が異なります。
直接還元法は、一期間の純収益を還元利回りで還元する方法です。基本的な考え方は、「収益価格=一期間の純収益÷還元利回り」です。
DCF法は、連続する複数期間の純収益と、保有期間終了時の売却価値などを表す復帰価格を、それぞれの発生時期に応じて現在価値に割り引き、その合計から収益価格を求めます。証券化対象不動産では、DCF法が重視されます。
| 比較項目 | 直接還元法 | DCF法 |
|---|---|---|
| 対象期間 | 一期間 | 連続する複数期間 |
| 用いる収益 | 一期間の純収益 | 各期間の純収益 |
| 将来の売却価値 | 通常は直接用いない | 復帰価格として考慮する |
| 計算の考え方 | 純収益を還元利回りで還元する | 各収益と復帰価格を現在価値に割り引いて合計する |
| 重要な場面 | 一般的な収益価格の把握 | 証券化対象不動産で重視 |
【基本式】
直接還元法は「収益価格=一期間の純収益÷還元利回り」です。DCF法は複数期間の純収益と復帰価格を扱います。
10ひっかけ対策
不動産鑑定評価では、名称の似た用語や、「一切適用できない」といった強い表現がひっかけとして使われます。次の対応をまとめて確認しましょう。
| 論点 | 正しい整理 | 誤りやすい読み方 |
|---|---|---|
| 価格類型 | 特殊価格は、一般に市場性を有しない不動産について求める | 特定価格が市場性なし |
| 3手法 | 原価=積算、比較=比準、収益=収益 | 手法名と試算価格名を入れ替える |
| 事情補正 | 取引事情の特殊性を補正する | 時間の経過を修正する |
| 時点修正 | 取引時点と価格時点のズレを修正する | 売り急ぎなどを補正する |
| 原価法 | 条件によっては土地にも適用できる | 土地には一切適用できない |
| 収益還元法 | 自用不動産でも賃貸想定により適用できることがある | 自用不動産には一切適用できない |
| DCF法 | 複数期間の純収益と復帰価格を現在価値に割り引く | 一期間の純収益だけを用いる |
最後に押さえるポイント
- ・不動産鑑定評価は、不動産の経済価値を判定し、その結果を価額で表示する手続です。
- ・価格類型は、正常価格・限定価格・特定価格・特殊価格の4つです。
- ・正常価格・限定価格・特定価格は市場性を有する不動産、特殊価格は一般に市場性を有しない不動産について求めます。
- ・価格形成要因は、一般的要因・地域要因・個別的要因に分けます。
- ・不動産価格は、原則として最有効使用を前提に把握します。
- ・原価法は費用性に着目し、積算価格を求めます。
- ・取引事例比較法は市場性に着目し、比準価格を求めます。
- ・収益還元法は収益性に着目し、収益価格を求めます。
- ・原価法では、再調達原価から減価修正を行います。
- ・事情補正は取引事情の特殊性、時点修正は取引時点と価格時点のズレを修正します。
- ・収益還元法は、自用不動産でも賃貸を想定して適用できる場合があります。
- ・直接還元法は、一期間の純収益を還元利回りによって還元します。
- ・DCF法は、複数期間の純収益と復帰価格を現在価値に割り引いて合計します。
- ・証券化対象不動産では、収益価格を求める際にDCF法が重視されます。
【最終確認】
価格類型は市場性の有無、3手法は「費用性・市場性・収益性」、各試算価格は「積算・比準・収益」で対応させて確認します。
【試験での解き方】
問題文から、価格の種類、着目する性質、用いる資料、一期間か複数期間かを拾い、該当する用語を選びます。