履行遅滞・履行不能・損害賠償・危険負担・解除・手付解除
1本章の学習ポイント
債務不履行とは、契約で約束した義務を、その内容どおりに果たさないことです。代金を支払わない、目的物の引渡しが遅れる、目的物を引き渡せなくなるなど、さまざまな形があります。債務不履行が起きたとき、債権者は履行を求めるだけでなく、損害賠償を請求したり、契約を解除したりできる場合があります。
学習の全体像
この章では、債務不履行の種類、損害賠償、賠償額の予定、金銭債務、危険負担、契約の解除、解除と第三者、解約手付の順に学びます。損害賠償は「生じた損害を金銭で補う制度」、解除は「契約関係から離れ、契約前の状態へ戻す制度」と、目的を分けて整理しましょう。
試験対策
試験で特に狙われるのは、損害賠償では原則として債務者の帰責事由が必要であるのに対し、解除では原則として債務者の帰責事由が不要であるという違いです。あわせて、履行遅滞が始まる時期、催告解除と無催告解除の区別、危険負担で代金の支払いを拒めるか、解除前後の第三者と登記、手付解除ができる時期も確認してください。
【この章で学ぶこと】
債務不履行が起きたときの対応を、「履行できるか」「損害賠償を請求できるか」「催告なしで解除できるか」「第三者がいつ現れたか」の順に整理します。
2債務不履行の種類
債務不履行は、学習上、主に履行遅滞・履行不能・不完全履行の3つに整理します。履行遅滞は「履行できるのに遅れている」、履行不能は「もはや履行できない」、不完全履行は「履行したものの、契約で約束した内容に足りない」という状態です。
履行遅滞がいつ始まるかは、期限の定め方によって異なります。問題文では、まず確定期限・不確定期限・期限の定めなしのどれに当たるかを確認し、遅滞の開始時点を判断しましょう。
| 類型 | 意味 | 具体例 |
|---|---|---|
| 履行遅滞 | 履行は可能だが、履行期を過ぎても履行しない状態 | 約束した日を過ぎても代金を支払わない |
| 履行不能 | 契約内容や取引上の社会通念に照らし、もはや履行できない状態 | 引渡し前に目的物が焼失し、引き渡せなくなった |
| 不完全履行 | 履行はしたが、契約内容どおりではない状態 | 約束した品質に満たない物を引き渡した |
| 期限の種類 | 遅滞が始まる時 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 確定期限 | 期限が到来した時 | 「○月○日まで」のように到来時期が確定 |
| 不確定期限 | 期限到来後に履行請求を受けた時、または期限の到来を知った時のいずれか早い時 | 期限が到来していることが前提 |
| 期限の定めなし | 履行請求を受けた時 | 請求を受けるまでは遅滞にならない |
| 遅滞中の履行不能 | 双方に責任のない事情による不能でも、原則として債務者の責めに帰すべきものとみなされる | 遅滞していたことの効果を確認 |
【注意ポイント】
不確定期限では、「期限の到来を知った時」と「期限到来後に履行請求を受けた時」を比べ、早い方から履行遅滞になります。
3損害賠償請求
損害賠償請求は、債務不履行によって生じた損害を金銭で補ってもらうための手段です。債務者が契約の内容どおりに履行しなかった場合や、履行が不能になった場合に請求できます。ただし、その不履行が契約内容や取引上の社会通念に照らして債務者の責任とはいえない事情によるときは、原則として損害賠償責任を負いません。
賠償の対象には、通常生ずべき損害に加え、特別な事情によって生じた損害も含まれる場合があります。債権者側にも落ち度があるときは、裁判所がその事情を考慮して、賠償責任や賠償額を定めます。また、履行不能や明確な履行拒絶、契約解除後などでは、履行そのものに代えて損害賠償を請求できることがあります。
| 項目 | 内容 | 試験での確認点 |
|---|---|---|
| 帰責事由 | 故意・過失など、契約内容や取引上の社会通念に照らして債務者の責任といえる事情 | 債務者の責任といえない事情なら、原則として賠償責任なし |
| 通常損害 | 債務不履行から通常生ずべき損害 | 原則として賠償の対象 |
| 特別損害 | 特別の事情によって生じた損害 | 当事者がその事情を予見し、または予見できたときに対象 |
| 過失相殺 | 債権者にも過失がある場合、その事情を考慮 | 賠償額の減額だけでなく、責任が否定される場合もある |
| 履行に代わる損害賠償 | 履行の代わりに金銭で損害を補う請求 | 履行不能・明確な履行拒絶・解除後など |
【重要ポイント】
損害賠償を判断するときは、まず債務者に帰責事由があるかを確認します。解除の要件と混同しないようにしましょう。
4賠償額の予定と金銭債務
損害賠償額の予定とは、債務不履行があった場合に支払う賠償額を、あらかじめ当事者間で決めておくことです。予定額を定めたときは、実際の損害額がそれより多くても少なくても、原則として予定した金額によって処理されます。裁判所がその金額を増減することはできません。
金銭債務には特別な扱いがあります。お金は同じ価値のものを用意できるため、金銭債務が履行不能になることはありません。また、不可抗力を理由に責任を免れることはできず、債権者は具体的な損害を証明しなくても遅延損害金を請求できます。
| 項目 | 要点 | 補足 |
|---|---|---|
| 損害賠償額の予定 | 不履行時の賠償額を事前に定める | 裁判所は予定額を増減できない |
| 履行請求・解除 | 賠償額を予定していても行うことができる | 賠償額の予定は、他の権利を消滅させない |
| 違約金 | 原則として損害賠償額の予定と推定 | 名称だけで判断しない |
| 金銭債務 | 履行不能なし・不可抗力による免責なし・損害の証明不要 | 支払遅滞として処理 |
| 遅延損害金の利率 | 法定利率または約定利率による | 法定利率は年3%(令和8年4月1日時点)。約定利率が法定利率を上回るときは約定利率 |
【注意ポイント】
賠償額の予定は、「不履行が起きたときにいくら支払うか」を固定する制度です。履行請求や解除までできなくなるわけではありません。
5危険負担
危険負担は、双務契約で、一方の債務が当事者双方の責任ではない事情によって履行不能になったときに、相手方が反対給付をしなければならないかを決める制度です。売買契約では、目的物を引き渡せなくなった場合に、買主が代金の支払いを拒めるかが問題になります。
たとえば、建物の売買契約後、引渡し前に天災で建物が滅失した場合、買主は原則として代金の支払いを拒むことができます。一方、目的物の引渡し後に、双方に責任のない事情で目的物が滅失・損傷した場合、買主はそのことを理由に代金の支払いを拒むことができません。
| 場面 | 買主の代金支払 | 判断理由 |
|---|---|---|
| 引渡し前に、双方に責任のない事情で滅失 | 支払いを拒むことができる | 売主が引渡債務を履行できないため |
| 引渡し後に、双方に責任のない事情で滅失・損傷 | 支払いを拒むことができない | 引渡し後の危険は買主側へ移る |
| 買主の責任で履行不能 | 支払いを拒むことができない | 債権者の責めに帰すべき事由による履行不能 |
| 売主の責任で履行不能 | 危険負担ではなく、損害賠償や解除を検討 | 債務者に帰責事由がある場面 |
【注意ポイント】
危険負担の問題では、まず「誰にも責任がないのか」「引渡しの前か後か」を確認し、そのうえで買主が代金の支払いを拒めるかを判断します。
6催告解除と無催告解除
解除は、債務不履行があったときに契約関係から離れるための制度です。原則は、相当の期間を定めて履行を求め、その期間内に履行がなければ解除する催告解除です。ただし、催告をしても契約の目的を達成できないことが明らかな場合には、催告をしないで直ちに解除できることがあります。
損害賠償とは異なり、解除には原則として債務者の帰責事由は必要ありません。ただし、不履行が軽微な場合は催告解除ができず、不履行が債権者の責任によって生じた場合は、催告解除・無催告解除のいずれもできません。
| 解除の種類・場面 | 催告 | 要点 |
|---|---|---|
| 催告解除 | 必要 | 相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がないときに解除 |
| 全部の履行が不能 | 不要 | 契約全体を直ちに解除できる |
| 全部の履行を明確に拒絶 | 不要 | 債務者が履行しない意思を明確に示した場合 |
| 一部不能・一部拒絶で、残りだけでは目的を達成できない | 不要 | 契約全体の解除が可能 |
| 定期行為の不履行 | 不要 | 特定の日時・期間を過ぎると契約目的を達成できない場合 |
| 催告しても目的を達する履行の見込みがないことが明らか | 不要 | 催告が無意味な場合 |
| 不履行が軽微 | 解除不可 | 催告期間経過時の不履行が軽微なら催告解除できない |
| 債権者の責任による不履行 | 解除不可 | 催告解除・無催告解除のいずれも不可 |
【重要ポイント】
解除問題では、最初に「催告して履行の機会を与える必要があるか」を確認します。催告しても意味がない場面だけ、無催告解除を検討します。
【注意ポイント】
解除には原則として債務者の帰責事由は不要ですが、債権者側の責任による不履行では解除できません。また、催告解除では不履行が軽微でないことも必要です。
7解除の効果
契約を解除すると、各当事者は、契約前の状態へ戻すための原状回復義務を負います。売主は受け取った代金を返し、買主は受け取った目的物を返します。金銭を返還するときは、受領した時からの利息を付けて返還しなければなりません。
売主の代金返還義務と買主の目的物返還義務は、同時履行の関係にあります。また、解除によって契約関係を解消しても、債務不履行によって別の損害が生じていれば、損害賠償を請求できます。ただし、解除によって第三者の権利を害することはできません。
| 項目 | 内容 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 原状回復義務 | 各当事者が契約前の状態へ戻す | 売主は代金、買主は目的物を返還 |
| 金銭の返還 | 受領時からの利息を付けて返還 | 解除時からではなく、受領時から |
| 物の返還 | 受領時以後に生じた果実も返還 | 金銭以外の物に関するルール |
| 同時履行 | 代金返還義務と目的物返還義務は同時履行 | 一方だけが先に履行する必要はない |
| 損害賠償 | 解除しても請求できる | 解除と損害賠償は目的が異なる |
| 第三者の権利 | 解除によって害することはできない | 解除前に第三者が現れた場合に重要 |
【学習のコツ】
解除は「契約を元に戻す」、損害賠償は「残った損害を金銭で補う」制度です。目的が異なるため、両方を行うことができます。
8解除前の第三者
解除前の第三者とは、契約が解除される前に、買主から目的物を取得した人です。たとえば、売主Aが買主Bに土地を売り、Aが契約を解除する前に、Bがその土地を第三者Cへ転売した場合のCが該当します。
不動産では、解除前の第三者が解除権者に権利を主張するためには、原則として登記が必要です。登記を備えていれば、第三者が解除原因を知っていたとしても保護されます。問題文では、善意・悪意より先に、登記の有無を確認しましょう。
| 第三者の状態 | 解除権者に対する結論 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 登記あり | 自己の権利を主張できる | 解除原因について善意・悪意を問わない |
| 登記なし | 自己の権利を主張できない | 不動産では登記が必要 |
【重要ポイント】
解除前の第三者は、「登記を備えているか」で判断します。登記があれば、原則として悪意でも保護されます。
9解除後の第三者
解除後の第三者とは、契約が解除された後に、元の買主から目的物を取得した人です。解除によって売主へ権利が戻っていても、登記名義が元の買主に残っている間に、その買主から第三者が不動産を取得することがあります。
この場合、解除権者と解除後の第三者は、同じ不動産について権利を主張する対抗関係になります。原則として、善意・悪意ではなく、先に登記を備えた人が優先されます。解除権者も、権利が戻っただけでは第三者に対抗できず、復帰登記を備える必要があります。
| 比較 | 結論 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 解除権者が先に復帰登記 | 解除権者が優先 | 第三者に所有権を主張できる |
| 第三者が先に取得登記 | 第三者が優先 | 解除権者は第三者に対抗できない |
| 善意・悪意 | 原則として優劣の中心ではない | まず登記の先後を確認 |
【注意ポイント】
解除前の第三者は「登記の有無」、解除後の第三者は「登記の先後」で整理します。第三者が現れた時期を取り違えないようにしましょう。
10解約手付と手付解除
解約手付は、相手方に債務不履行がなくても、一定の負担をして契約を解除できる手付です。特別な定めがなければ、売買契約で交付された手付は解約手付と推定されます。
買主は、交付した手付を放棄することで解除できます。売主は、受け取った手付の倍額を現実に提供することで解除できます。ただし、手付解除ができるのは相手方が契約の履行に着手するまでです。自分が履行に着手していても、相手方がまだ着手していなければ手付解除できます。
| 項目 | 要点 | 注意点 |
|---|---|---|
| 買主からの解除 | 交付した手付を放棄 | 手付の返還を求めない |
| 売主からの解除 | 受領した手付の倍額を現実に提供 | 口頭で支払うと伝えるだけでは足りない |
| 解除できる時期 | 相手方が履行に着手するまで | 判断基準は自分ではなく相手方 |
| 自分が履行に着手済み | 相手方が未着手なら解除できる | 自分の着手だけでは手付解除を妨げない |
| 損害賠償 | 手付解除それ自体を理由とする損害賠償は請求できない | 債務不履行による解除と区別 |
【重要ポイント】
手付解除の期限は、「相手方が履行に着手するまで」です。自分がすでに履行に着手しているかどうかでは判断しません。
【注意ポイント】
売主が手付解除するには、手付の倍額を現実に提供する必要があります。単に「倍額を支払う」と申し出るだけでは足りません。
最後に押さえるポイント
- ・債務不履行は、契約で約束した義務を内容どおりに果たさないことです。
- ・損害賠償は損害を金銭で補い、解除は契約関係から離れるための制度です。
- ・履行遅滞・履行不能・不完全履行の違いを、履行できるかどうかで整理します。
- ・損害賠償には原則として債務者の帰責事由が必要ですが、解除には原則として不要です。
- ・確定期限は期限到来時、不確定期限は知った時または期限到来後の請求時の早い方、期限なしは請求時から遅滞です。
- ・金銭債務は、履行不能なし・不可抗力による免責なし・具体的な損害の証明不要です。
- ・危険負担では、双方に責任のない履行不能なら、原則として反対給付を拒むことができます。
- ・売買目的物の引渡し後に双方無責で滅失・損傷した場合、買主は代金支払を拒めません。
- ・解除は催告解除が原則で、全部不能・明確な履行拒絶・定期行為などは無催告解除が認められます。
- ・軽微な不履行では催告解除できず、債権者側の責任による不履行では解除できません。
- ・解除後は原状回復義務が生じ、代金返還と目的物返還は同時履行の関係になります。
- ・解除しても、別に損害が残れば損害賠償を請求できます。
- ・解除前の第三者は登記の有無、解除後の第三者は登記の先後で判断します。
- ・手付解除ができるのは相手方が履行に着手するまでです。
- ・買主は手付放棄、売主は手付倍額の現実の提供によって手付解除します。
- ・自分が履行に着手していても、相手方が未着手なら手付解除できます。