供託・還付・取戻しを順番に整理
1本章の学習ポイント
営業保証金は、宅建業者との取引で損害を受けた相手方を保護するための制度です。宅建業者が営業を始める前に一定額を供託し、万一のときには取引の相手方がその保証金から弁済を受けます。
学習の全体像
この章では、営業保証金の基本、営業開始までの順序、供託額と供託場所、有価証券の評価、催告と免許取消し、新しい事務所の設置、保管替え、還付、不足額の供託、取戻し、保証協会との違いまでを順に整理します。
試験対策
試験では、1,000万円・500万円、3か月・1か月、2週間以内、6か月以上、国債100%・地方債等90%・その他の債券80%などの数字が狙われます。数字だけで覚えず、「供託」「還付」「取戻し」のどの場面で使う数字かをセットにして確認しましょう。
2営業保証金の基本
営業保証金とは、宅建業者が営業を始める前に供託所へ預ける保証金です。宅建業に関する取引によって相手方が債権を取得した場合、その相手方は営業保証金から弁済を受けることができます。
この制度では、宅建業者が保証金を預ける「供託」、相手方が弁済を受ける「還付」、不要になった保証金を宅建業者が返してもらう「取戻し」を分けて考えます。
還付を請求できるのは、宅建業に関する取引で債権を持つ相手方です。ただし、取引の相手方自身が宅建業者である場合は、営業保証金から還付を受けることができません。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 供託 | 宅建業者が営業保証金を供託所に預けること |
| 還付 | 取引の相手方が営業保証金から弁済を受けること |
| 還付請求権者 | 宅建業に関する取引で債権を持つ相手方。ただし、相手方が宅建業者の場合は対象外 |
| 取戻し | 営業保証金が不要になったとき、宅建業者が返してもらうこと |
| 保証協会加入業者 | 営業保証金を直接供託せず、弁済業務保証金分担金を保証協会へ納付します。 |
3営業開始までの順序
宅建業者は、免許を受けただけでは営業を開始できません。営業保証金を供託し、その旨を免許権者へ届け出た後に、はじめて宅建業を開始できます。
手続の順序は、「免許を受ける→営業保証金を供託する→免許権者へ届け出る→営業を開始する」です。免許だけ、または供託だけでは営業できません。
営業保証金の供託先は、主たる事務所の最寄りの供託所です。一方、供託した旨の届出先は免許権者です。供託所と免許権者を混同しないようにします。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 免許取得 | 免許だけでは営業開始不可 |
| 営業保証金の供託 | 主たる事務所の最寄りの供託所へ供託 |
| 免許権者への届出 | 供託した旨を届け出る |
| 営業開始 | 供託と届出が終わった後に可能 |
【注意ポイント】営業を始められるのは、営業保証金を供託した後ではなく、供託した旨を免許権者へ届け出た後です。
免許を受けただけ、または営業保証金を供託しただけでは営業できません。供託した旨を免許権者へ届け出た後にはじめて営業を開始できます。
4供託額と供託場所
営業保証金の額は、宅建業法上の事務所の数によって決まります。主たる事務所は1,000万円、その他の事務所は1か所につき500万円です。
本店分と支店分は、主たる事務所の最寄りの供託所へまとめて供託します。従たる事務所ごとに、それぞれの最寄りの供託所へ分けて供託するわけではありません。
案内所やモデルルームは、営業保証金額を計算するときの事務所数には含めません。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 主たる事務所 | 1,000万円 |
| その他の事務所 | 1か所につき500万円 |
| 案内所・モデルルーム | 営業保証金額の計算には含めません。 |
| 供託場所 | 主たる事務所の最寄りの供託所 |
| 供託方法 | 本店分と支店分をまとめて供託 |
5供託できるものと有価証券評価
営業保証金は、金銭だけでなく、一定の有価証券で供託できます。金銭と有価証券を組み合わせて供託することもできます。
有価証券は種類によって評価額が違います。国債証券は額面金額の100%、地方債証券と政府保証債券は90%、その他の債券は80%です。
株券は営業保証金として供託できません。有価証券という言葉に引きずられて、株券も供託できると考えないようにします。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 金銭 | 供託可能。金額どおりに評価 |
| 国債証券 | 額面金額の100% |
| 地方債証券・政府保証債券 | 額面金額の90% |
| その他の債券 | 額面金額の80% |
| 株券 | 供託不可 |
【注意ポイント】国債100%、地方債・政府保証債90%、その他の債券80%です。株券は評価する以前に供託できません。
有価証券は種類によって評価率が異なります。国債証券は額面の100%、地方債・政府保証債券は90%、その他の債券は80%です。株券は評価率以前に営業保証金として供託できません。
6供託後の届出・催告・免許取消し
営業保証金を供託した宅建業者は、その旨を免許権者へ届け出ます。この届出を終えるまでは営業を開始できません。
免許の日から3か月以内に供託した旨の届出がないときは、免許権者が届出をするよう催告します。
催告が到達した日から1か月以内にも届出がない場合、免許権者は免許を取り消すことができます。「必ず取り消す」ではなく、「取り消すことができる」点に注意します。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 免許の日から3か月以内 | 供託した旨の届出がない場合、免許権者が催告します。 |
| 催告到達後1か月以内 | それでも届出がなければ、免許権者は免許を取り消すことができます。 |
| 取消しの性質 | 義務的な取消しではなく、免許権者が取り消すことができる制度です。 |
| 営業開始 | 供託と届出が完了するまでは営業できません。 |
7新しい事務所の設置と供託物の変換
新たに従たる事務所を設置するときは、1か所につき500万円を追加で供託します。供託先は、新しい事務所の最寄りではなく、主たる事務所の最寄りの供託所です。
追加供託を行い、その旨を免許権者へ届け出た後でなければ、新しい事務所で営業を開始できません。
供託している金銭を有価証券へ差し替えるなど、供託物を変更することを「営業保証金の変換」といいます。変換のために新たに供託したときは、遅滞なく免許権者へ届け出ます。
変換後も、必要な営業保証金額を満たしていなければなりません。評価率の低い有価証券へ差し替える場合は、保証金が不足しないかを確認します。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 従たる事務所の新設 | 1か所につき500万円を追加供託 |
| 供託場所 | 主たる事務所の最寄りの供託所 |
| 営業開始 | 追加供託と届出後でなければ新事務所で営業不可 |
| 変換 | 金銭から有価証券、有価証券から金銭などに差し替えること |
| 変換時の届出 | 新たに供託したときは遅滞なく免許権者へ届出 |
| 評価額 | 差替え後も必要な営業保証金額を満たしている必要があります。 |
8主たる事務所の移転と保管替え
主たる事務所を移転し、最寄りの供託所が変わる場合は、営業保証金を新しい供託所へ移す必要があります。この手続を「保管替え」といいます。
営業保証金を金銭だけで供託しているときは、保管替えを請求できます。これに対し、有価証券を含めて供託しているときは保管替えではなく、新しい供託所へ必要額を供託した後、従前の供託所から供託物を取り戻します。
保管替えや新たな供託が完了した後は、遅滞なく免許権者へ届け出ます。主たる事務所を移転しただけで、供託所が自動的に変わるわけではありません。
有価証券を含む場合の従前分の取戻しは、新しい供託所で相手方保護が続いているため、公告をせずに行うことができます。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 主たる事務所移転 | 新しい主たる事務所の最寄りの供託所が問題 |
| 金銭のみ供託 | 保管替えを請求できる |
| 有価証券を含む供託 | 新供託と従前供託所からの取戻しで処理 |
| 二重供託の取戻し | 新しい供託所に必要額を供託しているため、従前分の取戻しは公告不要 |
| 届出 | 保管替え等の後、遅滞なく免許権者へ届出 |
| 対象となる移転 | 従たる事務所ではなく、主たる事務所の移転に関する論点です。 |
9還付と還付請求権者
還付とは、宅建業者との宅建業に関する取引によって生じた債権について、取引の相手方が営業保証金から弁済を受けることです。
還付を受けられるのは、宅建業に関する取引で債権を有する相手方です。ただし、相手方自身が宅建業者である場合は対象になりません。
従業員の給与、広告業者の広告代金、宅建業者の借入金など、宅建業に関する取引から生じたものではない債権も、営業保証金からの還付対象にはなりません。
営業保証金制度では、保証協会制度のような認証手続は必要ありません。保証協会制度では、還付を受ける前に保証協会の認証が必要です。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 対象となる者 | 宅建業に関する取引によって債権を取得した取引の相手方。 |
| 相手方が宅建業者 | 営業保証金から還付を受けることはできません。 |
| 宅建業取引以外の債権 | 従業員の給与、広告代金、借入金などは対象外です。 |
| 営業保証金制度 | 保証協会による認証は不要です。 |
| 保証協会制度 | 還付の前に保証協会の認証が必要です。 |
10還付後の不足額供託と届出
営業保証金から還付が行われ、必要額に不足が生じた場合、宅建業者は不足額を補充しなければなりません。
不足額の供託期限は、免許権者から通知を受けた日から2週間以内です。さらに、不足額を供託した後は、その供託をした日から2週間以内に免許権者へ届け出ます。
この場面では「2週間以内」が2回出てきます。最初は通知を起点とする不足額の供託、次は供託日を起点とする届出です。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 不足額の供託 | 免許権者から通知を受けた日から2週間以内。 |
| 供託後の届出 | 不足額を供託した日から2週間以内。 |
| 起算点 | 不足額供託は「通知日」、届出は「供託日」から数えます。 |
【注意ポイント】通知から2週間以内に不足額を供託し、供託した日から2週間以内に届け出ます。2つの起算点を入れ替えないようにします。
起算点が異なる2つの「2週間以内」が連続して出てきます。不足額供託の起算点は「免許権者から通知を受けた日」、その後の届出の起算点は「不足額を供託した日」です。混同しないよう整理しておきましょう。
11営業保証金の取戻し
取戻しとは、営業保証金が不要になったときに、宅建業者が供託した金銭や有価証券を返してもらうことです。
廃業、免許の失効・取消し、一部の事務所の廃止などによって必要な営業保証金額が減った場合に、取戻しが問題になります。
宅建業者がすぐに営業保証金を取り戻すと、後から還付を求める相手方が保護されません。そのため、取戻しでは原則として6か月以上の期間を定めて公告し、還付請求権者が申し出る機会を確保します。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 廃業・免許失効・免許取消し | 営業保証金が不要になったため、取戻しが問題になります。 |
| 一部事務所の廃止 | 必要額が減少し、超過部分を取り戻す場合があります。 |
| 保証協会への加入 | 営業保証金制度から保証協会制度へ切り替わるため、供託済みの営業保証金を取り戻せます。 |
| 公告の原則 | 6か月以上の期間を定めて公告します。 |
| 公告の目的 | 還付請求権者に、債権を申し出る機会を与えるためです。 |
12取戻し公告と公告不要の場合
営業保証金の取戻しでは、原則として6か月以上の公告が必要です。ただし、すべての場合に公告が必要なわけではありません。
保証協会に加入したため営業保証金が不要になる場合は、公告なしで取戻しできます。二重供託により従前の供託金を取り戻す場合も、公告不要で処理します。
また、取戻し事由が発生した時から10年を経過した場合も、公告なしで取戻しできます。6か月以上の公告と10年経過の公告不要を分けます。
公告が必要か不要かは、還付請求権者を保護する必要があるかで考えると理解しやすくなります。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 原則 | 6か月以上の期間を定めて公告 |
| 保証協会加入 | 公告不要で取戻し可能 |
| 二重供託 | 新たに供託しているため、従前分の取戻しは公告不要 |
| 10年経過 | 取戻し事由発生時から10年を経過した場合は公告不要 |
| 一部事務所の廃止等 | 原則として公告が必要かを確認します。 |
13営業保証金と保証協会の比較
営業保証金制度と保証協会制度は、どちらも取引の相手方を保護するための制度ですが、宅建業者が納める相手と金額が異なります。
営業保証金制度では、宅建業者が主たる事務所の最寄りの供託所へ直接供託します。これに対し、保証協会制度では、宅建業者が弁済業務保証金分担金を保証協会へ納付し、保証協会が弁済業務保証金を供託します。
金額は、営業保証金が主たる事務所1,000万円・その他の事務所500万円、保証協会の分担金が主たる事務所60万円・その他の事務所30万円です。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 納付先 | 営業保証金は供託所、分担金は保証協会へ納めます。 |
| 主たる事務所の額 | 営業保証金1,000万円、分担金60万円。 |
| その他の事務所の額 | 営業保証金1か所500万円、分担金1か所30万円。 |
| 還付手続 | 営業保証金は保証協会の認証不要。保証協会制度では認証が必要です。 |
| 還付後の補充 | 営業保証金は不足額を供託し、保証協会では還付充当金を納付します。 |
14保証協会への加入と社員地位の喪失
宅建業者が保証協会へ加入すると、取引の相手方は営業保証金制度ではなく、保証協会制度によって保護されます。
すでに営業保証金を供託している宅建業者が保証協会へ加入した場合は、その営業保証金を公告せずに取り戻すことができます。加入後は、弁済業務保証金分担金を保証協会へ納付します。
反対に、保証協会の社員の地位を失った宅建業者が引き続き営業する場合は、社員の地位を失った日から1週間以内に営業保証金を供託します。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 保証協会への加入 | 営業保証金制度から保証協会制度へ切り替わります。 |
| 分担金 | 主たる事務所60万円、その他の事務所1か所30万円を保証協会へ納付します。 |
| 供託済み営業保証金 | 公告をせずに取り戻すことができます。 |
| 社員地位を喪失して営業を継続 | 社員の地位を失った日から1週間以内に営業保証金を供託します。 |
| 納付先の区別 | 営業保証金は供託所、分担金は保証協会です。 |
15ひっかけ対策
営業保証金では、金額、供託場所、手続の順序、期限の入れ替えがよく狙われます。1,000万円・500万円は営業保証金、60万円・30万円は保証協会の分担金です。
営業保証金は、主たる事務所の最寄りの供託所へまとめて供託します。支店ごとに分けて供託する、保証協会へ供託する、といった説明は誤りです。
還付後は、通知から2週間以内に不足額を供託し、供託日から2週間以内に届け出ます。取戻しは原則6か月以上の公告が必要ですが、保証協会への加入や二重供託などでは公告不要です。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 金額 | 営業保証金は1,000万円・500万円、保証協会の分担金は60万円・30万円。 |
| 供託場所 | 主たる事務所の最寄りの供託所へまとめて供託します。 |
| 営業開始 | 免許、供託、届出のすべてが終わった後です。 |
| 届出がない場合 | 免許日から3か月で催告、催告到達後1か月で取消し可能。 |
| 還付後 | 不足額供託は通知から2週間以内、届出は供託日から2週間以内。 |
| 取戻し | 原則6か月以上の公告。保証協会加入・二重供託・10年経過は公告不要。 |
| 認証 | 営業保証金制度では不要、保証協会制度では必要です。 |
【注意ポイント】営業保証金は宅建業者が供託所へ供託します。保証協会制度では、宅建業者が分担金を保証協会へ納付し、保証協会が弁済業務保証金を供託します。
2つの制度で「誰が」「どこへ」「何を」納めるかを整理しましょう。営業保証金は宅建業者→供託所、保証協会制度では宅建業者→保証協会(分担金)、保証協会→供託所(弁済業務保証金)という流れです。
16最後に押さえるポイント
- 営業保証金は、宅建業者との取引で債権を持つ相手方を保護するための保証金です。
- 営業保証金では、供託、還付、取戻しの3つの場面を分けて整理します。
- 宅建業者は、免許を受け、営業保証金を供託し、その旨を免許権者へ届け出た後に営業を開始できます。
- 営業保証金は、主たる事務所1,000万円、その他の事務所1か所につき500万円です。
- 営業保証金の供託場所は、主たる事務所の最寄りの供託所です。
- 案内所やモデルルームは、営業保証金額の計算に含めません。
- 営業保証金は、金銭と一定の有価証券で供託できます。
- 国債証券は100%、地方債証券・政府保証債券は90%、その他の債券は80%で評価します。
- 株券は、営業保証金として供託できません。
- 免許の日から3か月以内に供託した旨の届出がない場合、免許権者は催告します。
- 催告到達後1か月以内にも届出がなければ、免許権者は免許を取り消すことができます。
- 新たに従たる事務所を設置するときは、1か所につき500万円を追加供託します。
- 主たる事務所を移転した場合、金銭のみの供託なら保管替えを確認します。
- 有価証券を含む供託では、新しい供託所への供託と従前分の取戻しで処理します。
- 還付を受けられるのは、宅建業に関する取引で債権を持つ相手方です。
- 取引の相手方自身が宅建業者である場合は、営業保証金から還付を受けられません。
- 還付後の不足額供託は、免許権者から通知を受けた日から2週間以内です。
- 不足額供託後の届出は、供託した日から2週間以内です。
- 営業保証金の取戻しは、原則として6か月以上の公告が必要です。
- 保証協会への加入や二重供託による取戻しは、公告不要です。
- 取戻し事由が発生した時から10年を経過した場合も、公告不要です。
- 保証協会へ加入した宅建業者は、営業保証金ではなく弁済業務保証金分担金を保証協会へ納付します。
- 保証協会の社員の地位を失い、営業を続ける場合は、1週間以内に営業保証金を供託します。
- 営業保証金の1,000万円・500万円と、保証協会の60万円・30万円を混同しないようにします。