有権代理・無権代理・表見代理・復代理
1本章の学習ポイント
代理とは、本人に代わって代理人が相手方と契約し、その契約から生じる権利や義務を本人に直接帰属させる制度です。契約の場に出る人と、契約の効果を受ける人が分かれるため、まず「誰に効果が帰るのか」を確認しましょう。
学習の全体像
この章では、有権代理、無権代理、表見代理、復代理の順に学びます。はじめに、代理権と顕名がそろった基本形を押さえます。そのうえで、代理権がない場合に本人へ効果が帰属するのか、相手方をどのように保護するのかを整理していきましょう。
試験対策
試験では、「契約の効果が本人に帰属するか」「無権代理の相手方がどの権利を使えるか」「表見代理が成立するか」がよく問われます。顕名、代理人の行為能力、代理行為の瑕疵、自己契約・双方代理、代理権の消滅、無権代理人の責任、復代理人の立場は、結論を入れ替えた問題が出やすいため、比較しながら覚えましょう。
2代理の基本構造と有権代理
有権代理とは、代理人が与えられた代理権の範囲内で、本人のために契約することです。実際に相手方と契約のやり取りをするのは代理人ですが、契約から生じる権利や義務は本人に直接帰属します。
顕名とは、代理人が「本人のために契約します」と相手方に分かるように示すことです。相手方から見て、代理人個人との契約なのか、本人との契約なのかを区別できるようにする役割があります。
代理人が顕名をしなかった場合は、原則として代理人自身のためにした契約とみなされます。ただし、相手方が本人のための契約だと知っていた場合、または注意すれば知ることができた場合は、本人に効果が帰属します。
| 項目 | 整理 | 補足 |
|---|---|---|
| 代理権 | 本人のために法律行為をする権限 | 権限の範囲内で行動することが必要 |
| 顕名 | 本人のためにすることを相手方へ示すこと | 口頭・書面など、相手方に分かる方法で示す |
| 有権代理の効果 | 契約の効果が本人に直接帰属 | 代理人自身には原則として帰属しない |
| 顕名がない場合 | 原則として代理人自身の契約 | 相手方が本人のためと知り、または知ることができたときは代理として扱う |
| 相手方からの意思表示 | 代理人が受けた場合も本人に効果が帰属 | 本人宛ての意思表示を代理人が受ける場面 |
代理権の範囲が具体的に定められていない代理人は、財産の現状を維持する保存行為と、物や権利の性質を変えない範囲での利用・改良行為だけを行えます。
| 行為 | できること | 具体例 |
|---|---|---|
| 保存行為 | 財産の現状を維持する行為 | 期限が迫った債権の時効完成を防ぐ行為など |
| 利用行為 | 性質を変えない範囲で財産を活用する行為 | 空き家を短期間賃貸する行為など |
| 改良行為 | 性質を変えない範囲で価値を高める行為 | 建物の通常の修繕など |
| 処分行為 | 原則としてできない | 不動産の売却など、財産の性質を大きく変える行為 |
【学習のコツ】
代理権の範囲がはっきりしないときは、まず「現状を守る行為か」を考えます。利益になりそうな行為でも、不動産の売却のように財産の性質を変える行為には、別に代理権が必要です。
3任意代理・法定代理と代理人の行為能力
任意代理は、本人が自分の意思で代理人を選び、代理権を与える代理です。これに対して、法定代理は、親権者や成年後見人のように、法律の規定によって代理権が生じる代理です。
代理人は、制限行為能力者でもかまいません。代理人が契約しても、契約の効果を受けるのは本人だからです。そのため、本人は「代理人が制限行為能力者だった」という理由だけで、代理行為を取り消すことはできません。
夫婦には、日常の家事に関して互いに代理する権限があります。ただし、不動産の売買や多額の借入れなど、共同生活に通常必要な範囲を超える行為は、日常家事代理権の範囲には含まれません。
| 項目 | 内容 | 試験での確認点 |
|---|---|---|
| 任意代理 | 本人の意思により代理権が発生 | 委任の終了や復代理人の選任条件を確認 |
| 法定代理 | 法律の規定により代理権が発生 | 親権者・成年後見人などが代表例 |
| 代理人の行為能力 | 制限行為能力者でも代理人になれる | 本人は能力不足だけを理由に取消し不可 |
| 日常家事代理権 | 夫婦の共同生活に通常必要な行為が範囲内 | 食料品・日用品の購入など |
| 日常家事の範囲外 | 代理権のない行為となる | 不動産売買や多額の借入れなど |
【注意ポイント】
問題文に制限行為能力者が登場したら、その人が自分のために契約したのか、他人の代理人として契約したのかを先に確認します。代理人として行動した場合は、契約の効果が本人に帰るため、代理人の能力不足だけでは取り消せません。
4代理行為の瑕疵と善意・悪意の判断
代理人がした意思表示に、錯誤・詐欺・強迫などの問題がある場合や、ある事情について善意か悪意か、過失があるかを判断する場合は、原則として代理人を基準にします。実際に相手方とやり取りをし、意思表示をするのが代理人だからです。
たとえば、代理人が相手方にだまされて契約した場合、詐欺を受けたかどうかは代理人について判断します。ただし、取消しなどの効果を主張するのは、契約の効果が帰属する本人です。
例外として、本人が特定の法律行為をするよう代理人に細かく指図していた場合、本人は、自分が知っていた事情や、過失によって知らなかった事情について、「代理人は知らなかった」と主張することはできません。
| 場面 | 判断の基準 | 補足 |
|---|---|---|
| 原則 | 代理人を基準に判断 | 実際に相手方と取引するのが代理人であるため |
| 対象となる事情 | 錯誤・詐欺・強迫、善意・悪意、過失など | 意思表示の効力に影響する事情 |
| 取消しなどの権利 | 本人に帰属 | 契約の効果を受けるのが本人であるため |
| 本人が特定の行為を指図 | 本人の知識や過失も考慮 | 本人が知っていた事情を、代理人の善意を理由に主張できない |
【学習のコツ】
「事情を判断する人」と「取消しなどを主張する人」を分けます。事情の有無は原則として代理人を基準に判断しますが、取消権などは本人に帰属します。
5自己契約・双方代理・利益相反行為・代理権濫用
自己契約とは、代理人が自分自身を契約の相手方にする行為です。双方代理とは、同じ人が契約当事者の双方を代理する行為です。いずれも本人の利益が害されるおそれがあるため、原則として無権代理行為とみなされます。
代理人と本人の利益が対立する利益相反行為も、本人があらかじめ許諾していない限り、無権代理行為とみなされます。ただし、債務の履行のように契約内容がすでに確定しており、本人に新たな不利益が生じない行為や、本人があらかじめ許諾した行為は例外です。
代理権濫用は、代理人に代理権はあるものの、自分や第三者の利益を図る目的で、その権限を不正に使う場合です。相手方がその目的を知っていた場合、または注意すれば知ることができた場合は、無権代理行為とみなされます。
| 行為 | 原則の扱い | 例外・判断点 |
|---|---|---|
| 自己契約 | 無権代理行為とみなす | 本人の許諾や債務の履行がある場合は例外 |
| 双方代理 | 無権代理行為とみなす | 本人の許諾や債務の履行がある場合は例外 |
| 利益相反行為 | 無権代理行為とみなす | 本人があらかじめ許諾した場合は例外 |
| 代理権濫用 | 原則として権限内の代理行為 | 相手方が悪意または有過失なら無権代理行為とみなす |
【注意ポイント】
代理権濫用は、最初から代理権がない場面ではありません。「代理権はあるが、代理人の目的が不正」という場面です。相手方がその不正な目的を知っていたか、注意すれば知ることができたかを確認します。
6代理権の消滅
代理権が消滅するかどうかは、本人側に事情が生じたのか、代理人側に事情が生じたのかを分けて考えます。代理は信頼関係を前提とするため、誰にどのような事情が生じたかによって結論が変わります。
特に重要なのは、本人の死亡、代理人の死亡・破産手続開始・後見開始です。本人が後見開始の審判を受けても、代理権は当然には消滅しません。一方、代理人が後見開始の審判を受けると、代理権は消滅します。
委任による任意代理では、委任契約が終了すると代理権も消滅します。そのため、本人の破産手続開始により委任が終了した場合も、任意代理権は消滅します。
| 事情が生じた人 | 事由 | 代理権への影響 |
|---|---|---|
| 本人 | 死亡 | 消滅 |
| 本人 | 後見開始 | 当然には消滅しない |
| 本人 | 破産手続開始 | 委任による任意代理では、委任終了に伴い消滅 |
| 代理人 | 死亡 | 消滅 |
| 代理人 | 破産手続開始 | 消滅 |
| 代理人 | 後見開始 | 消滅 |
| 委任関係 | 委任の終了 | 委任による任意代理権は消滅 |
【学習の補足】
法定代理権は、本人が破産手続開始の決定を受けたことだけでは消滅しません。本人の破産で消滅するのは、委任の終了が関係する任意代理です。
【重要ポイント】
後見開始は、本人と代理人で結論が反対です。本人が後見開始となっても代理権は当然には消滅しませんが、代理人が後見開始となると代理権は消滅します。
7無権代理と相手方の保護
無権代理とは、代理権のない人が、本人の代理人として契約することです。本人の意思に基づく契約ではないため、本人が追認しない限り、契約の効果は本人に帰属しません。
追認とは、本人が無権代理行為を後から認めることです。本人が追認すると、別段の意思表示がない限り、契約時にさかのぼって有効になります。ただし、追認によって第三者の権利を害することはできません。
本人が追認を拒絶した場合は、契約の効果は本人に帰属しません。相手方は不安定な立場に置かれるため、本人への催告、契約の取消し、無権代理人への責任追及によって保護されます。
| 権利・行為 | 内容 | 要件・効果 |
|---|---|---|
| 本人の追認 | 無権代理行為を後から認める | 原則として契約時にさかのぼって有効 |
| 本人の追認拒絶 | 契約効果の帰属を拒む | 本人に契約の効果は帰属しない |
| 相手方の催告権 | 本人に追認するか確答を求める | 相当の期間内に回答がなければ、追認拒絶とみなす |
| 相手方の取消権 | 本人の追認前に契約を取り消す | 契約時に無権代理であることを知らなかった相手方が行使できる |
| 無権代理人への責任追及 | 履行または損害賠償を求める | 相手方の善意・過失や無権代理人の状態を確認 |
追認は、無権代理人または相手方に対して行えます。ただし、本人が無権代理人に対して追認した場合、相手方がその事実を知るまでは、本人は追認の効果を相手方に主張できません。
| 相続の場面 | 結論 | 理由・補足 |
|---|---|---|
| 無権代理人が本人を単独相続 | 追認を拒絶できない | 自分がした無権代理行為を、本人の立場になって否定することは信義則に反する |
| 本人が無権代理人を相続 | 追認を拒絶できる | 本人が無権代理行為をしたわけではないため |
【注意ポイント】
相手方の取消権に必要なのは「善意」です。無過失までは求められません。一方、無権代理人への責任追及では、原則として相手方の善意無過失が必要です。
【重要ポイント】
無権代理人が本人を単独で相続した場合は、信義則上、本人の立場で追認を拒絶できません。無権代理行為は有効なものとして確定します。
8無権代理人への責任追及
本人が無権代理行為を追認しない場合、相手方は一定の要件を満たせば、無権代理人に対して、契約の履行または損害賠償を請求できます。本人に契約の効果が帰属しない場合に、相手方を保護するための制度です。
相手方が善意無過失であれば、原則として責任追及できます。相手方が無権代理であることを知っていた場合は、事情を承知のうえで契約しているため、責任追及できません。
相手方が善意でも過失がある場合は、原則として責任追及できません。ただし、無権代理人自身が代理権のないことを知っていた場合は、例外として責任追及できます。また、無権代理人が制限行為能力者であった場合は、責任追及できません。
| 相手方の状態 | 責任追及 | 補足 |
|---|---|---|
| 善意無過失 | できる | 相手方が選択して、履行または損害賠償を請求 |
| 善意有過失 | 原則としてできない | 無権代理人が代理権なしを知っていた場合は例外的にできる |
| 悪意 | できない | 無権代理であることを知って契約したため |
| 無権代理人が制限行為能力者 | できない | 制限行為能力者を保護するため |
【注意ポイント】
相手方に過失があっても、無権代理人が自分に代理権がないことを知っていた場合は、例外的に責任追及できます。「善意有過失なら必ず責任追及できない」と決めつけないようにしましょう。
9表見代理
表見代理とは、実際には代理権がないにもかかわらず、外から見ると代理権があるように見える場合に、その外観を信頼した相手方を保護する制度です。表見代理が成立すると、相手方は本人に対して契約の効果を主張できます。
表見代理が成立するには、相手方が善意無過失であるだけでは足りません。本人が代理権のあるような外観を作った、またはその外観が残る原因を作ったことが必要です。
表見代理は、「代理権授与の表示」「権限外の行為」「代理権消滅後」の3類型に分けて整理します。いずれも実際には無権代理であるため、要件を満たす場合には、相手方は本人への効果帰属と無権代理人への責任追及を選択肢として検討できます。
| 類型 | 基本場面 | 相手方保護の要件 |
|---|---|---|
| 代理権授与の表示 | 本人が第三者に対し、ある人に代理権を与えたと表示したが、実際には代理権がない | 表示された代理権の範囲内の行為について、相手方が善意無過失 |
| 権限外の行為 | 基本となる代理権はあるが、その範囲を超えて代理行為をした | 権限があると信じる正当な理由があること |
| 代理権消滅後 | 代理権が消滅した後に、元代理人が代理行為をした | 代理権の消滅について相手方が善意無過失 |
| 確認順序 | 確認する内容 | 結論 |
|---|---|---|
| 1 | 実際の代理権があるか | あれば有権代理。なければ次へ |
| 2 | 本人側に、代理権があるような外観を生じさせた原因があるか | なければ表見代理は成立しない |
| 3 | 3類型のどれに当たるか | 授与表示・権限外・消滅後に分類 |
| 4 | 相手方が善意無過失などの要件を満たすか | 満たせば本人に契約効果を主張できる |
【重要ポイント】
相手方が「代理権がある」と信じただけでは、表見代理は成立しません。本人側に、代理権があるような外観を作った原因があるかを必ず確認しましょう。
10復代理
復代理とは、代理人が別の人を選び、その人に本人の代理をさせる制度です。選ばれた人を復代理人といいます。復代理人は「代理人の代理人」ではなく、法律上は本人の代理人です。
復代理人が権限の範囲内でした行為の効果は、本人に直接帰属します。ただし、復代理人の代理権は、もとの代理人の代理権を前提としています。そのため、もとの代理人の代理権が消滅すると、復代理人の代理権も消滅します。
任意代理人は、原則として自由に復代理人を選任できません。本人の許諾がある場合、またはやむを得ない事情がある場合に限って選任できます。一方、法定代理人は、原則として復代理人を選任できます。
| 項目 | 整理 | 補足 |
|---|---|---|
| 復代理人の地位 | 本人の代理人 | もとの代理人の代理人ではない |
| 任意代理人による選任 | 原則として自由に選任できない | 本人の許諾またはやむを得ない事情が必要 |
| 法定代理人による選任 | 原則として選任できる | 自らの責任で復代理人を選任 |
| 本人・相手方との関係 | 代理人と同じ権利義務を負う | 与えられた権限の範囲内で行動 |
| もとの代理権との関係 | もとの代理権が消滅すると復代理権も消滅 | 復代理権はもとの代理権を超えられない |
| 選任後のもとの代理人 | 代理権は当然には消滅しない | 代理人と復代理人の双方が権限を持つことがある |
【注意ポイント】
復代理人を選ぶのはもとの代理人ですが、復代理人の法律上の立場は本人の代理人です。したがって、復代理人が権限内でした行為の効果は、もとの代理人ではなく本人に帰属します。
最後に押さえるポイント
- 有権代理は、代理権の範囲内で顕名して行うと、契約の効果が本人に直接帰属します。
- 顕名がない場合は、原則として代理人自身の契約です。ただし、相手方が本人のための契約だと知り、または知ることができた場合は、本人に効果が帰属します。
- 代理人は制限行為能力者でもかまいません。本人は、代理人の行為能力が制限されていたことだけを理由に取り消すことはできません。
- 代理行為の瑕疵や善意・悪意は、原則として実際に取引した代理人を基準に判断します。
- 自己契約・双方代理・利益相反行為は、原則として無権代理行為とみなされます。本人の許諾や債務の履行などには例外があります。
- 代理権濫用は、代理権の範囲内の行為であることが前提です。相手方が代理人の不正な目的について悪意または有過失なら、無権代理行為とみなされます。
- 本人の後見開始では代理権は当然には消滅しませんが、代理人の後見開始では代理権が消滅します。
- 無権代理行為は、本人が追認しない限り本人に効果が帰属しません。追認すれば、原則として契約時にさかのぼって有効になります。
- 無権代理の相手方は、催告・取消し・無権代理人への責任追及という手段で保護されます。取消権は善意で足りますが、無権代理人への責任追及は原則として善意無過失が必要です。
- 表見代理は、本人側の外観と相手方の保護要件が必要です。成立すると、相手方は本人に契約の効果を主張できます。
- 復代理人は、もとの代理人の代理人ではなく本人の代理人です。もとの代理人の代理権が消滅すると、復代理人の代理権も消滅します。